栄養学の考え方を変えさせた実験
The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Copyright ©1997 by the American Society for Nutritional Sciences
Experiments That Changed Nutritional Thinking
Kenneth J. Carpenter, Alfred E. Harper, and Robert E. Olson
Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA; University of Wisconsin, Madison, WI; and University of South Florida, Tampa, FL
食餌グループ | ||
基本食餌 | 基本 | 基本 + ナイアシン |
g/wk | ||
15% カゼイン | 29 | 29 |
9% カゼイン + 40% CG | 7 | 27 |
9% カゼイン + 40% CG + Trp | 31 | |
9% カゼイン | 10 | |
9% カゼイン + 0.2% Cys | 12 | 17 |
9% カゼイン + 0.2% Cys + 0.07% Thr | 3 | 19 |
食餌に1mg%必要なナイアシンとモル比で40倍のトリプトファンの互換性のもっとも妥当な説明は、トリプトファンがナイアシンに転換することであった。ナイアシン欠乏において40%トウモロコシ粉の代わりを2%の酸加水分解カゼイン(トリプトファンは破壊)がすることは、他のアミノ酸が増えるとナイアシン欠乏を誘導する可能性を示唆した。この効果は”アミノ酸インバランス”と名付けられた。ナイアシン欠乏をもっとも起こしやすいのはトレオニンとリシンであり(Hankes et al. 1948)、この効果を最大にするには硫黄アミノ酸の追加が必要であった。したがって、その後の実験では基本食餌に0.2%のL-シスチンが加えられた(表1)。9% カゼイン + 0.2% L-シスチンで飼ったラットにたいする他のアミノ酸の影響は次の図によって説明される。 ラットについての多くの同位体標識実験はトリプトファンのナイアシンへの変換を確認した。この反応についての最初の事実はアカパンカビ(Neurospora crassa)変異種の実験で得られた(図 1)。この図の最初の4つの化合物は動物の系で認められ、キノリン酸は哺乳類でトリプトファンからの排泄物質として同定され、ラットおよびナイアシン非生産性変異株アカパンカビであまりナイアシンの代わりにならないものであった(Henderson 1949)。 図 1 アカパンカビおよびラットにおいてトリプトファンがナイアシンになる経路の中間代謝産物 外因性のキノリン酸が食餌でナイアシンの代用になり難いことから、ナイアシン生成におけるキノリン酸の役割に疑いがもたれた。この制限はたぶんキノリン酸塩が細胞に入れないことによるのであろう。キノリン酸は強酸であり非解離形で細胞内に入らなければならないので、膜を通過するのに適当なpHは生理的pHよりずっと低いからである。ナイアシン生成におけるキノリン酸の役割は西塚と早石(Nishizuka and Hayaishi 1963)の研究によって解明された。彼らはラット肝臓の可溶性酵素によってキノリン酸が5-ホスホリボシル1-ピロリン酸の存在のもとでニコチン酸モノヌクレオチドになることを示した (図2)。 図 2 トリプトファンの全代謝およびナイアシンを含むピリジニウム化合物への変化の簡略スキーム 南ヨーロッパのトウモロコシを食料とする貧しい人々でペラグラが流行し、西半球の土着の人たちに見られないことは、アメリカ土着の人たちはコーンミールからトルティージャ(tortilla)を作るときに石灰水などアルカリ性液を使うことによって、説明されてきた。Krehl et al. (1945b)の50年前の観察はナイアシン必要量が種によって違うことを説明し、トウモロコシにトリプトファンが非常に少ない事実から、トウモロコシの消費とペラグラの関係を部分的に説明してきた。この関係を完全に理解するには、アルカリと一緒に熱するとナイアシンになる仮説的物質の同定が必要である。 |
文献 |
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Elvehjem C. A., Madden R. J., Strong F. M., Woolley D. W. The isolation and identification of the anti-black tongue factor. J. Biol. Chem. 1938; 123:137-149 Gholson, R. K., Nishizuka, Y., Ichiyama, A., Kawai, H., Nakamura, S. & Hayaishi, O. (1962) New intermediates in the catabolism of tryptophan in mammalian liver. J. Biol. Chem. 237: PC2043-2045. Hankes L. V., Henderson L. M., Brickson W. L., Evlehjem C. A. Effect of amino acids on the growth of rats on niacin-tryptophan deficient rations. J. Biol. Chem. 1948; 174:873-881 Henderson L. M. Quinolinic acid metabolism II. Replacement of nicotinic acid for the growth of the rat and Neurospora. J. Biol. Chem. 1949; 181:677-685 Koeppe O. J., Henderson L. M. Niacin-tryptophan deficiency resulting from imbalances in amino acid diets. J. Nutr. 1955; 55:23-33 Krehl, W. A., Teply, L. J. & Elvehjem, C. A. (1945a) Corn as an etiological factor in the production of nicotinic acid deficiency in the rat. Science 101: 283. Krehl W. A., Teply L. J., Sarma P. S., Elvehjem C. A. Growth-retarding effect of corn in nicotinic acid-low rations and its counteraction by tryptophane. Science 1945b; 101:489-490 Nishizuka, Y. & Hayaishi, O. (1963) Enzymic synthesis of niacin nucleotides from 3-hydroxyanthranilic acid in mammalian liver. J. Biol. Chem. 238: PC483-485. Suhadolnik R. J., Stevens C. O., Decker R. H., Henderson L. M., Hankes L. V. Species variation in metabolism of 3-hydroyanthranilate to pyridinecarboxylic acids. J. Biol. Chem. 1957; 228:973-982 (訳者 水上茂樹) |