栄養学の考え方を変えさせた実験
The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Copyright ©1997 by the American Society for Nutritional Sciences
Experiments That Changed Nutritional Thinking
Kenneth J. Carpenter, Alfred E. Harper, and Robert E. Olson
Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA; University of Wisconsin, Madison, WI; and University of South Florida, Tampa, FL
放射線量 (R) | ||||||||
100 | 150 | 200 | 250 | 300 | 350 | 400 | 500 | |
死亡率, % | ||||||||
キャベツ | ― | ― | 0 | 10 | 25 | 50 | 75 | 100 |
ビート | 2.5 | ― | 100 | ― | 100 | ― | 100 | ― |
1 Lourau and Lartigue (1950)より |
ビートを与えられたモルモットがキャベツを与えられた動物より低い放射能量で死んだ他に、ルローとラルティグは2つのグループで特定の病変だけに違いがあることを述べた。骨髄の病変は2つのグループで同じであったが、ビートを与えられたグループはキャベツを与えられたグループより同じ放射能で激しく広範囲の出血が起きていた。 著者たちは食餌の放射能感受性への影響について2つの説明を提言した。彼らは1)キャベツはビタミンPやCのように放射能障害から防御する物質を含む、2)照射によって毒性をもつ物質がビートに含まれる。彼女らはビートが放射線照射を受けたモルモットにとって毒性があるという第二の説明を好んだ。これはビートを与えられたモルモットのLD50は約150Rであり、これはふつうに報告されているLD50の250Rよりかなり低いことにより支持された。 数年後にデュプラン氏(Jean-Francois Duplan)はルローとラルティグの第一の説明が事実は正しく、キャベツは放射線障害を予防することを示した (Duplan 1953)。デュプランは70匹の雄モルモットを燕麦とふすまで飼った。試験食はキャベツまたはニンジンを添加し、動物は1回の照射を受けた。 デュプランの結果は表2に示す。所与の放射線量でキャベツを与えられた動物はニンジンを与えられたのより死亡率がずっと低かった。彼は病変に違いを見なかったが、ニンジンを与えられた動物はキャベツを与えられたのより体重の減少が大きいことを述べた。 |
放射線量 (R) | |||
300 | 500 | 1000 | |
死亡率, % | |||
キャベツ | 0 | 6.5 | 87.5 |
ビート | 50 | 86 | ― |
1 Duplan (1953)より |
デュプランの結果はルローとラルティグがビートに毒性物質を含むと考えたのは誤りであろうと示唆した。ニンジンが毒性物質を含むと結論するのではなく、デュプランはキャベツがモルモットの放射線感受性を下げると結論した。彼は放射線防御性の物質はキャベツにある抗酸化性の甲状腺腫誘発物質であろうと考えた。 スペクターとキャロウェー (Spector and Calloway 1959) は放射線障害から防御する食餌因子についてのこの研究を続けた。彼らはルローとラルティグの研究はコントロール・グループが無いと非常に重要な指摘をした。コントロール・グループがあれば2つの説明(ビートの毒性ある物質 vs キャベツの防御物質)のどちらが正しいか判ったであろうと。 スペクターとキャロウェーは燕麦とふすまのコントロール食餌を用い、これにビート、キャベツ、またはブロッコリを加えた。彼らは4グループのモルモットを放射線400Rで照射した。彼らの結果を表3に示す。ビート摂取は死亡率を変えなかったが、キャベツとブロッコリは照射による死亡率を有意義に低下させた。このようにして彼らは、ルローとラルティグのビートは毒性物質を含むという結論は誤りであり、デュプランのキャベツの防御効果は正しかったことを証明した。 |
400 R 照射後 20日の死亡率 | ||||||||
サプレメント | Spector and Calloway(1959) | Calloway et al(1963) | ||||||
死亡率, % | ||||||||
無し | 100 | 97 | ||||||
ビート | 90 | ― | ||||||
キャベツ | 50 | 54 | ||||||
ブロッコリ | 35 | 42 | ||||||
アルファルファ | 0 | |||||||
Mustard greens | 12 | |||||||
緑豆 | 31 | |||||||
レタス | 44 | |||||||
総合ビタミン | 72 | |||||||
1 Lourau and Lartigue (1950)より |
キャロウェーと協同研究者たちは防御効果を与える物質の研究を続けた(Calloway et al.1963)。基本食餌はビタミンAを欠いていてこの食餌で飼育された動物はビタミンA欠乏になることが知られていたので、ビタミンAがモルモットの放射線感受性を下げる可能性を彼らは示唆した。彼らの結果は表3に示す。この実験で彼らはキャベツとブロッコリが照射動物の死亡率を下げることを示した以前の結果を確かめた。彼らは幾つかの他のβ-カロティン-含有野菜もまた同じように有益な効果を示すことを発見した。ビート、リンゴ、白ポテートは効果が無かった。すべての必須ビタミンをサプレメントすると死亡率はある程度は下がったが、野菜のサプレメントしたときと同じ程度ではなかった。純粋なビタミンAやβ-カロティンのサプレメンテーションは死亡率にはほとんど効果が無かった。 キャロウェーと協同研究者たちは適当に純化した食餌で飼うとモルモットは放射性傷害からある程度は防御されることを見いだした。このことはブロッコリの有益な効果が栄養状態の改良によるかも知れないことを示唆した。しかし、ブロッコリの有益な効果はブロッコリの既知成分のパターンに従って48種の化学的に純粋な成分を与えることによっては再現させることはできなかった。 これら3グループの実験を一緒にして考えると、キャベツとブロッコリに存在する非栄養素物質がモルモットを放射線障害から防御していることを、示唆した。この物質を単離するキャロウェーの実験はこの物質が水溶性分画に存在することを示したが、この物質そのものは単離できなかった。 これらの初期の実験はヒトにおいて果物と野菜の消費が有益であることについてのその後の研究の基礎となった。植物はビタミンとミネラルの他に多くの重要な生物活性を持つ非栄養性の物質を含んでいる。たとえば抗酸化性、抗がん性、抗微生物性、抗炎症性、抗ヴィールス性、抗変異効果性の活性。これらの非栄養物質はリグナン、インドール、クマリン、フラボノイドなど、1994年(この論文が書かれた年)にマウスを放射能から保護する物質として報告されたものである(Shimoi et al.1994)。多分これらの物質は45年以上前に放射線防御効果があるとされた判りにくい物質だったのであろう。 |
文献 |
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Calloway D. H., Newell G. W., Calhoun W. K., Munson A. H. Further studies of the influence of diet on radiosensitivity of guinea pigs, with special reference to broccoli and alfalfa. J. Nutr. 1963; 79:340-348 Duplan J.-F. Influence of dietary regimen on the radiosensitivity of the guinea pig. C. R. Acad. Sci. 1953; 236:424-426 Lourau M., Lartigue O. The influence of diet on the biological effects produced by whole body X-irradiation. Experientia 1950; 6:25-26 Shimoi K., Masuda S., Furugori M., Esaki S., Kinae N. Radioprotective effect of antioxidative flavonoids in X-ray irradiated mice. Carcinogenesis 1994; 15:2669-2672 Spector H., Calloway D. H. Reduction of X-irradiation mortality by cabbage and broccoli. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 1959; 100:405-407 (訳者 水上茂樹) |