栄養学の考え方を変えさせた実験
The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Copyright ©1997 by the American Society for Nutritional Sciences
Experiments That Changed Nutritional Thinking
Kenneth J. Carpenter, Alfred E. Harper, and Robert E. Olson
Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA; University of Wisconsin, Madison, WI; and University of South Florida, Tampa, FL
全肝臓単位 | |||||
処理 | 毎日のカロティン | n | 全摂取単位 (黄色) | 青(610-630 nm) | 黄 |
使い果たしたもの | 0 | 10 | 0 | 0 | 1-10 |
カロティン | 10-50 µg | 4 | 770-4400 | 0 | 7-16 |
カロティン | 750 µg | 4 | 24,000-39,000 | 2000-3700 | 40-110 |
赤椰子油 | 1.55 g | 2 | 83,000-130,000 | 4500-5000 | 280-400 |
新鮮な人参 | Ad libitum | 2 | ND | 5300-16,000 | 250-600 |
1Moore 1930より。 ND = not determined. |
1920年代半ばにβ-カロティンとビタミンAは色、吸収スペクトラム、可溶性および三塩化アンチモンとの反応で、全く違う物質であることが明らかになった。ビタミンAは三塩化アンチモンと反応して鮮やかな水色(吸収極大:610-630nm)となるのに対して、カロティンは吸収極大が590nmの弱い緑青色となった。β-カロティンの吸収極大は約450nm(訳注:黄色)であるが、ビタミンAの吸収はきわめて弱く辛うじて328nmに極大が存在した。これらの研究で使われた主な機械はLovibond 色調計 (tintometer)であった。これを使って2つのタイプの単位が定義された:黄色単位はβ-カロティンに高くビタミンAには非常に低く、青単位は三塩化アンチモン反応に基礎を置くものでビタミンAに高くβ-カロティンに低かった。このようにして黄色単位と青色単位の比はカロティンに対して11:1でビタミンAに対しては1:100であった。 ムアの本論文は1930年にBiochem.J.に刊行された。彼はカロテノイド標品にビタミンAが含まれるかどうかを測定した。彼は人参の濃縮液からカロテノイドを12回結晶化した。次に彼は結晶化カロティンとタラ肝油濃縮液の成長促進能力を比較した。ほぼ同量のカロティンと肝油濃縮液はビタミンA欠乏ラットの成長を同じように促進した。肝油濃縮液は期待したようにビタミンAに特有の610-630nmの強い青色を呈した。もしもカロティン標品にビタミンAが混入しているとしたら、強い青色を呈する筈であった。しかし、そのようなことはなかった。したがって、ムアはカロティン標品にビタミンAは含まれないと結論した。 ムアは続いてカロティンがin vivoでビタミンAに変換させる研究に進んだ。彼は22匹のラットにビタミンAおよびカロティンを含まない餌を28日から77日にわたり与えた。10匹の欠乏ラットを殺し、肝臓の黄色単位と青色単位を測定した。その後で残りのラットに起源が異なるカロティンを16日から55日にわたってサプレメントした。次にこれらのラットを殺して肝臓を分析した。ムアの論文にあるデータを要約して表1に示す。欠乏を起こさせたラットの肝臓には少し黄色単位があったが、青色単位は無かった。少量のカロティンを与えると成長は促進されたが、肝臓で黄色単位も青色単位もあまり変化しなかった。ところが大量のカロティンまたは主としてα-型とβ-型のカロティンをほぼ等量に含む赤椰子油を与えると肝臓の青色単位は劇的に増加したが、黄色単位は軽度にしか増加しなかった。ラットに新鮮な人参をad libitumに与えた結果はほぼ同じであった。 ムアはさらに次のような計算を行った。β-カロティンの黄色単位と青色単位の比は11:1なので、大量のカロティンを与えたときに肝臓で見つかった青色単位(2000 - 3700) に相当するカロティンの黄色単位は22000 - 41000となる。しかし実際に存在する黄色単位は40-100 (図1)であり、これはカロティンそのものの活性の役割を果たすにはあまりにも少ない。したがってMoore (1930)は次のように結論した:”カロティンの発色反応が、生理的反応を起こす程度の量の肝臓油のビタミンAによる発色反応を隠すことは、不可能である。カロティン、または後で不均一となったらその一部、がin vivoでビタミンAの前駆体であるという結論が得られた。” 間もなくKarrer et al. (1931)はカロティンとビタミンAの化学構造を決定した。カラーの構造決定はムアの結論に従うものであった。このようにして、主として植物に見つかる色のある物質と、肝臓にあってほとんど色の無い物質の間のジレンマは解決された。言う必要の無いことであるが、ムアの発見は時の試練に耐えた。 |
文献 |
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Karrer P., Morf R., Schoepp K. Zur kenntnis des vitamins A in fischtranen. Helv. Chim. Acta 1931; 14:1431-1436 McCollum E. V., Davis M. The necessity of certain lipins during growth. J. Biol. Chem. 1913; 15:167-175 Moore T. LXXIX. Vitamin A and carotene. V. The absence of the liver oil vitamin A from carotene. VI. The conversion of carotene to vitamin A in vivo. Biochem. J. 1930; 24:692-702 Osborne E. V., Mendel L. B. The relation of growth to the chemical constituents of the diet. J. Biol. Chem. 1913; 15:311-326 Palmer L. S., Kempster H. L. Relation of plant carotenoids to growth, fecundity and reproduction of fowls. J. Biol. Chem. 1920; 39:299-313 Steenbock H. White corn vs. yellow corn and a probable relationship between the fat-soluble vitamine and yellow plant pigments. Science 1919; 50:352-353 (訳者 水上茂樹) |