ComeJisyo Project

栄養学の考え方を変えさせた実験


The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Copyright ©1997 by the American Society for Nutritional Sciences
Experiments That Changed Nutritional Thinking
Kenneth J. Carpenter, Alfred E. Harper, and Robert E. Olson
Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA; University of Wisconsin, Madison, WI; and University of South Florida, Tampa, FL

11: カロティンのビタミンAへの転換
1900年代の始めにホプキンス (Frederick Gowland Hopkins) とフンク (Casimir Funk) やその他の研究者は、食品中の微量な有機化合物が成長と栄養的な良い状態に必須の役割をすることを明らかにした。食事中のこれらの微量な必須成分は”vitamine"と呼ばれた。これは最初に見つかったチアミンが反応基としてアミンを持っていたからであった。これらの秘密のビタミンが生体物質の水溶性抽出物だけでなく、脂溶性抽出物に含まれることは、アメリカおよびヨーロッパの研究者によって明らかになった。ウィスコンシン大学のMcCollum and Davis (1913)およびイェール大学のOsborne and Mendel (1913)はこの脂溶性の成長栄養素を持つ食物を同定した。活性のある食物にはバター、卵黄、全粉乳、タラ肝油および多くの有色果物と野菜があり、活性の無い食物にはラード、オリーブ油および色素の無い果物と野菜があった。

1913年と1919年の間に次の2種類の食物が活性を示すことが判った:1) 色が無いかまたは薄黄色のもの、2) 黄色の食物、主として植物性。これら2種類の食物の栄養学的な関係が問題となった。幾つかの可能性があった:1) 2種類の物質は成長に必須のある生理的なシステムで独立に活性がある、2) 有色素物質そのものに活性があるか、活性のあるいわゆる”ロイコ”型になるか、または3) 2種類の物質のうちの1つだけが活性を持ち他の1つは活性成分が混入しているか。1919年にスティーンボック (Harry Steenbock) は書いた:”少なくとも作業仮説として脂溶性ビタミンは黄色の色素またはそれと関係する物質とみなすのが合理的に考えて安全であろう”と。

次の年にパーマーとケムプスター (Palmer and Kempster (1920))はこの仮説を試しました。彼らはブタ肝臓の無色の抽出物をカロティンを含まない餌にサプレメントすると、ニワトリが良く育ち卵を産むことを示した。この分野は突然に混乱に陥った。もしも黄色色素 (カロテイノイド) が活性ある成長促進物質でないとしたら、動物産物無しに成長と発生を促進したのだろうか?

種々の要因がこの問題の明快な分析を困難にした。まず第一にビタミンAの化学構造もカロテノイドの構造も知られてなかったことであった。第二に動物由来にしろ植物由来にしろ、すべての脂質標品は不純物をたくさん含んでいたことであった。第三にある種の植物のカロテノイドは成長を促進し、同じような有色植物の抽出物は促進しなかった。第四に他の種類の栄養欠乏がしばしば結果の解釈を困難にした。たとえばビタミンEが必須の脂溶性ビタミンとして発見されたのは1920年代の初頭であった。最後に動物源のビタミンAと植物源のカロテノイドの測定方法は初歩的なものであった。

パーマーとケムプスターの研究の後で一般に受け入れられていた見解は、カロテノイドがブタ肝臓その他の動物組織にある色の無いビタミンが混入していることであった。このようにカロテノイドそのものは抽出液中の活性が無い成分と考えられていた。

ムア (Thomas Moore) は1900年に生まれ、ケンブリッジ大学のDunn栄養学研究所で研究を1200年代半ばに始めた。植物における生物活性をもつカロテノイド生成における光の重要性の研究に続いて、カロティンとビタミンAの栄養学的関係に注目した。”混入”仮説に納得できなかったので、1920年代末にカロティンのビタミンAへの変換の研究をはじめた。彼の研究の2つの目標は、1) 純化したカロティン標品にビタミンAが含まれないこと、2) in vivoでカロティンがビタミンAに変換することを明白に示すこと、であった。

Table 1. 摂取したカロティンと貯蔵カロティンおよびビタミンAの比較1

全肝臓単位

処理毎日のカロティンn全摂取単位 (黄色)青(610-630 nm)

使い果たしたもの010001-10
カロティン10-50 µg4770-440007-16
カロティン750 µg424,000-39,0002000-370040-110
赤椰子油1.55 g283,000-130,0004500-5000280-400
新鮮な人参Ad libitum2ND5300-16,000250-600

1Moore 1930より。 ND = not determined.
1920年代半ばにβ-カロティンとビタミンAは色、吸収スペクトラム、可溶性および三塩化アンチモンとの反応で、全く違う物質であることが明らかになった。ビタミンAは三塩化アンチモンと反応して鮮やかな水色(吸収極大:610-630nm)となるのに対して、カロティンは吸収極大が590nmの弱い緑青色となった。β-カロティンの吸収極大は約450nm(訳注:黄色)であるが、ビタミンAの吸収はきわめて弱く辛うじて328nmに極大が存在した。これらの研究で使われた主な機械はLovibond 色調計 (tintometer)であった。これを使って2つのタイプの単位が定義された:黄色単位はβ-カロティンに高くビタミンAには非常に低く、青単位は三塩化アンチモン反応に基礎を置くものでビタミンAに高くβ-カロティンに低かった。このようにして黄色単位と青色単位の比はカロティンに対して11:1でビタミンAに対しては1:100であった。

ムアの本論文は1930年にBiochem.J.に刊行された。彼はカロテノイド標品にビタミンAが含まれるかどうかを測定した。彼は人参の濃縮液からカロテノイドを12回結晶化した。次に彼は結晶化カロティンとタラ肝油濃縮液の成長促進能力を比較した。ほぼ同量のカロティンと肝油濃縮液はビタミンA欠乏ラットの成長を同じように促進した。肝油濃縮液は期待したようにビタミンAに特有の610-630nmの強い青色を呈した。もしもカロティン標品にビタミンAが混入しているとしたら、強い青色を呈する筈であった。しかし、そのようなことはなかった。したがって、ムアはカロティン標品にビタミンAは含まれないと結論した。

ムアは続いてカロティンがin vivoでビタミンAに変換させる研究に進んだ。彼は22匹のラットにビタミンAおよびカロティンを含まない餌を28日から77日にわたり与えた。10匹の欠乏ラットを殺し、肝臓の黄色単位と青色単位を測定した。その後で残りのラットに起源が異なるカロティンを16日から55日にわたってサプレメントした。次にこれらのラットを殺して肝臓を分析した。ムアの論文にあるデータを要約して表1に示す。欠乏を起こさせたラットの肝臓には少し黄色単位があったが、青色単位は無かった。少量のカロティンを与えると成長は促進されたが、肝臓で黄色単位も青色単位もあまり変化しなかった。ところが大量のカロティンまたは主としてα-型とβ-型のカロティンをほぼ等量に含む赤椰子油を与えると肝臓の青色単位は劇的に増加したが、黄色単位は軽度にしか増加しなかった。ラットに新鮮な人参をad libitumに与えた結果はほぼ同じであった。

ムアはさらに次のような計算を行った。β-カロティンの黄色単位と青色単位の比は11:1なので、大量のカロティンを与えたときに肝臓で見つかった青色単位(2000 - 3700) に相当するカロティンの黄色単位は22000 - 41000となる。しかし実際に存在する黄色単位は40-100 (図1)であり、これはカロティンそのものの活性の役割を果たすにはあまりにも少ない。したがってMoore (1930)は次のように結論した:”カロティンの発色反応が、生理的反応を起こす程度の量の肝臓油のビタミンAによる発色反応を隠すことは、不可能である。カロティン、または後で不均一となったらその一部、がin vivoでビタミンAの前駆体であるという結論が得られた。”

間もなくKarrer et al. (1931)はカロティンとビタミンAの化学構造を決定した。カラーの構造決定はムアの結論に従うものであった。このようにして、主として植物に見つかる色のある物質と、肝臓にあってほとんど色の無い物質の間のジレンマは解決された。言う必要の無いことであるが、ムアの発見は時の試練に耐えた。
文献
Karrer P., Morf R., Schoepp K. Zur kenntnis des vitamins A in fischtranen. Helv. Chim. Acta 1931; 14:1431-1436
McCollum E. V., Davis M. The necessity of certain lipins during growth. J. Biol. Chem. 1913; 15:167-175
Moore T. LXXIX. Vitamin A and carotene. V. The absence of the liver oil vitamin A from carotene. VI. The conversion of carotene to vitamin A in vivo. Biochem. J. 1930; 24:692-702
Osborne E. V., Mendel L. B. The relation of growth to the chemical constituents of the diet. J. Biol. Chem. 1913; 15:311-326
Palmer L. S., Kempster H. L. Relation of plant carotenoids to growth, fecundity and reproduction of fowls. J. Biol. Chem. 1920; 39:299-313
Steenbock H. White corn vs. yellow corn and a probable relationship between the fat-soluble vitamine and yellow plant pigments. Science 1919; 50:352-353

(訳者 水上茂樹)