ComeJisyo Project

栄養学の考え方を変えさせた実験


The Journal of Nutrition Vol. 127 No. 5 May 1997, pp. 1017S-1053S
Copyright ©1997 by the American Society for Nutritional Sciences
Experiments That Changed Nutritional Thinking
Kenneth J. Carpenter, Alfred E. Harper, and Robert E. Olson
Department of Nutritional Sciences, University of California, Berkeley, CA; University of Wisconsin, Madison, WI; and University of South Florida, Tampa, FL

19: ビタミンD内分泌系の発見
この世紀の初めのマッカラムら (McCollum and Davis 1913, McCollum et al. 1916) やオズボーンとメンデル (1917)のビタミン発見によって、くる病(北ヨーロッパや北アメリカに広がっていた)は食事欠乏によると考えられるようになった。この考えが正しいことはメランビー (Sir Edward Mellanby (1919)) によって示されたが、彼は抗くる病活性がマッカラムら(1916)の脂溶性ビタミンAによるのと考えた。しかし、マッカラムたちは1922年にくる病を治すのは異なる脂溶性物質によることを明らかに示した (McCollum et al. 1922)。

つづく20年間にビタミンD生成における照射過程 (Steenbock and Black 1924)、ビタミンD2(Askew et al. 1931)およびビタミンD3 (Windaus et al. 1936)の単離と構造決定、小腸におけるカルシウム吸収と骨の石灰化におけるビタミンDの生理機能 (Nicolaysen and Eeg-Larsen 1953)、が発見された。コディセクと彼のグループはビタミンD代謝の研究のパイオニアで、最初にバイオアセイを行い続いてきわめて弱い標識ビタミンD2を使った (Kodicek 1956)。ビタミンDそのものが小腸で生物活性を示すという論文 (Haussler and Norman 1967)に示されるように、この考えは1960年代を通じて存在した。

この領域における成功の基礎となったキーは、本当に生理的量のビタミンDで実験ができるように十分に高い比放射能のビタミンDの化学合成と言うことができる (Neville and DeLuca 1966)。極性のある生物活性を持つビタミンD代謝産物が発見され (Lund and DeLuca 1966, Norman et al. 1964)、代謝産物の極性が高いほど、活性が高いだけでなく急速に作用することが、その後の研究で示された (Morii et al. 1967)。これによって1968年の25-ヒドロキシビタミンD3(25-OH-D3)の単離と構造決定にはずみがつき (Blunt et al. 1968)、同じ年に化学合成によって構造が確認された (Blunt and DeLuca 1969)。化学合成ができるようになったので25-OH-D3の側鎖に高い比放射能のトリチウム標識が可能になった。これによって、25-OH-D3は急速に消失してより極性の強い代謝産物に変換することが示された (Cousins et al. 1970):Lawson et al. (1969)は腸に主なビタミンD代謝物として”ピークP”の存在を明らかにし、これは1の位置にあった標識を失っているとして、欠トリチウム代謝物と呼んだ。しかしトリチウムを失うことは他の研究室では認められず、極性のある代謝産物が腸に見いだされ、”4B”と名付けられた (Haussler et al. 1968)。

デルーカ・グループで代謝産物の単離と同定が続き、少なくとも3種の極性代謝物が見つけ出された。一つは25,26-ジヒドロキシビタミン D3 (Suda et al. 1970b)、他の一つは21,25-ジヒドロキシビタミン D3 (Suda et al. 1970a)と信ぜられ、第3のものは血液中にあまりに少なかったので同定は出来なかった。標的組織で機能する代謝物は標的組織からのみ信頼性を持って単離できることが間もなく明らかになた。したがって、トリチウム標識ビタミン D3を注射した1600羽のビタミンD欠乏ニワトリの腸から、デルーカ・グループが”ピーク5”と呼ぶものが得られた。何回ものクロマトグラフィーによってまだ少し不純と思われるもの8 µgが得られた (Holick et al. 1971)。この代謝物は第三水酸基を持っていることから、特異的に修飾して再クロマトグラフできると考えられた。したがって、これのトリメチルシリル誘導体(TMS:trimethylsilyl 訳注 揮発性が高くなるのでガスクロマトグラフ分析が可能になる)を作り、25-部位の第三アルコールはそのままにして、第二アルコールからシリル基を除いた (Holick et al. 1971)。クロマトグラフによって精製して純粋な25-TMS代謝物 2 µgが得られた。質量クロマトグラフィーおよび特異的な化学反応によって、これの構造は1,25-ジヒドロキシビタミン D3 [1,25-(OH)2D3] と決定された (Holick et al. 1971)。

同じ頃、Fraser and Kodicek (1970)は重要な発見をした。すなわち彼らの代謝産物”ピークP"(デルーカ実験室の”ピーク5”、ノーマン・グループの”ピーク4B)は腎臓だけで作られることであった。この重要な発見はすぐに確認された (Gray et al. 1971, Norman et al. 1971)。コディセク・グループはin vitroで大量の代謝産物を作ったが、同定するには純度が不足であった。1,25-(OH)2D3構造の証明は、過程が長い化学合成によって、1-位置の水酸基の立体構造が1α(訳注:αとβの2つの可能性がある)であることよって終了した (Semmler et al. 1972)。このようにして、ビタミンDの活性型代謝物は1α,25-(OH)2D3であることが決定された。さらにこの代謝物は腎臓摘出ラットでも偽手術ラットでも同じように活性があった (Boyle et al. 1972, Holick et al. 1972)が、その前駆体である25-OH-D3は腎臓摘出ラットでは全く生物活性が無かった。これはビタミンDの機能活性化に2-ステップ過程が必要な明白な事実である。他の重要な証明はFraser et al. (1973)によってなされた。彼らはビタミンD依存性のくる病I型(ビタミンDを正常に摂取しても重篤なくる病が起きる常染色体劣性遺伝病)が生理的量の合成1,25-(OH)2D3によって治癒することを示し、ヒトにおける2-ステップ活性化に疑いの存在しないことが明らかになった。

ピーク5の同定が進むあいだに、Boyle et al. (1971)はピーク5産物のin vivo生産が食餌カルシウム水準に強く依存することを見いだした。カルシウムが少ないと1,25-(OH)2D3への大量の転換が起き、カルシウム濃度が高くビタミンDが充分のときには他の代謝物である24,25-(OH)2D3が生産された。このことを追求すると副甲状腺ホルモンがこの調節を行っていることが判った(Garabedian et al. 1972)。すなわち、血液カルシウム濃度が低いと副甲状腺ホルモンが分泌されて腎臓の1-ヒドロキシラーゼを促進してビタミンDホルモンを生産する。ビタミンDホルモンは副甲状腺ホルモンと共に、骨からのカルシウムの動員および腎臓によるカルシウムの再吸収を準備し、1,25-(OH)2D3はそれ自体でカルシウムとリンの吸収を準備する(DeLuca 1974)。このようにビタミンD内分泌系の基本的な教義は1974年のFederation Proceedings 講演にまとめたように (DeLuca 1974)、1968年から1973年の間に発見された。
文献
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(訳者 水上茂樹)